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この記事は、教室通信6月号の特集を再編したものです。
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全国学力テストがペーパーレス時代に!
京進の個別指導 スクール・ワン四日市ときわ教室の吉川です。
学校現場にもデジタル化の波が押し寄せています。
毎年4月、小学6年生・中学3年生は全国学力・学習状況調査(全国学力テスト)を受けます。
今年の新たな取り組みとして、中学理科で初のCBT方式(Computer Based Testing。つまりオンライン上のテスト)が導入されました。
2026年度には中学英語もCBT化、2027年度には小学校を含む全教科でCBT化され、冊子を用いた筆記方式は廃止される方針です。
ペーパーレス化されたことで、問題の作り方や評価のしかたもガラッと変わります。
たとえば、一人一人、解答する問題が異なります。
問題は違うものの統計的に難易度は同じようになるように調整され、学力評価は客観的になされるように処理されるとのことです。
これは、政府の「GIGAスクール構想」に基づき、小中学校に1人1台の端末が整備されたことが背景にあります。
冊子の印刷や配送にかかる費用も削減できて、その分、動画や音声を活用した多様な出題・解答パターンが可能になりました。
ペーパーレス化の動きは、教室の中でもひしひしと感じます。
テスト範囲から教科書まで、オンライン上で配信される高校が増えてきました。
生徒はタブレット上で教科書を見て学習しています。
中学生の宿題もタブレット上で配信されることは一般的になりました。
教室自習の際、教室のwi-fiを利用して自学自習してもらう風景も見かけるようになりました。
しかし、このペーパーレス化の傾向には、学習効果の観点から問題点もあると感じています。今回の記事はそこがメインテーマです。
教室現場で感じた問題点
当教室ではコロナ禍の2020年から数年間、英単語学習アプリを採用していました。
通常授業で英語を受講していた生徒中心に教科書の英単語を学習してもらい、定期テストの得点アップにつながればという思いでした。
アプリ学習には継続し続けられるかの壁があり、私の実感では毎日のように学習を継続できたのは10人中2~3人というところです。
(塾としての応援が足らなかったと言われればその通りです)
その2~3人は、たとえばテスト範囲の英単語の記憶率が100%に達しました。
英単語が完璧なら定期テストも満点というわけにはいきませんが、ここまで練習を反復していれば80点くらいは期待してしまうものです。
しかし、全員がそうというわけにはいかず、平均点くらいにとどまる生徒もいました。
アプリ上では記憶100%なのに、です。
そして、アプリ上で書けていた単語が、テストの答案ではうまく書けていないケースも見かけました。
なぜそのようなことが起こるかにはいろいろな理由が想定されますが、今回の特集に沿うならば「オンライン上の解答と紙面の解答結果には差がある」ということです。
後日、アプリ開発会社の方と直接打合せする機会があり、そのあたりの疑問をぶつけました。
その時の答えは「アプリだけで勉強を完結するのは現状おすすめできない。アプリをする前に、地道に書いて覚える学習時間が要る」という、アプリの存在意義の根幹を揺るがす返答でした。
正確に言うと、アプリの存在価値がないのではなく、アプリは「最終的なテスト」として使うのに意義がある、という結論です。
日常の学習は「指でペンを握り、紙に書きだす」アナログ勉強に変わりはなく、練習した結果、本当に書けるのかどうか試すテスト役は、ランダムにシャッフルして出題できるオンラインアプリが向いているという考えに今は落ち着いています。
あと、当教室では生徒の成績回収・成績管理をペーパーレス化しており、答案や成績はコピーせずに撮影してシステムに入力しています。
過去の成績推移がデータベース化されるので検索・表示するのに便利ですが、問題点を感じるのは答案・問題用紙の分析です。
撮影された画像で確認しようとすると、タブレット上では読みにくい問題や、一度に複数の問題用紙を閲覧するといった部分で、紙の実物に劣ります。
紙に印刷されたものを見た方が、内容が頭に入ってきやすいと感じることも多々あります。
脳科学的にタブレット学習は落とし穴だらけ!
これらの問題点は単なる主観ではなく、脳科学的な実験によっても裏付けられています。
紙の手書き学習とタブレット学習を比較した結果、「紙の手書き学習>タブレット学習」だというアメリカのナオミ・スーザン・バロン教授の研究があります(下のリンク参照)。
理由①「見る、読む」の差
デジタルデバイスで文章を読む場合、スクロール操作が頻繁に発生し、脳は文章全体の構造や位置関係を把握しにくいといいます。
一方、紙媒体では、ページをめくる、ページ全体を一度に目に入れられることで、脳は空間的な手がかりを利用して情報を整理しやすくなるのだといいます。
紙のほうが、記憶の検索効率が向上して長期記憶につながるという観点です。
理由②「書く」の差
紙に書くと、視覚(文字を見る)、運動(手を動かす)、触覚(紙やペンの感触)など、複数の感覚が同時に働きます。たくさんの感覚を動かすと、脳内でより多くの神経回路が活性化し、より深い学習につながると考えられています。
タブレット上で見るだけの学習と比較して、手書きは脳の広範囲を刺激する有意義な身体活動なのです。
理由③「集中力」の差
スマホ・タブレットなどのデジタルデバイスは、同じ画面上で他のアプリケーションへのアクセスがしやすく、通知も届くと目移りしやすいので、学習中に注意が散漫になりやすいという問題があります。
また、このようにあちこちに気が移ることは集中力の無駄遣い、疲弊になると指摘されています。
紙の学習であれば、まさにその紙に勉強しかありません。一つのことに集中しやすい環境は実は紙にあったと言えます。
一言でまとめれば、新しい技術の進化に、人間の動物的な進化がついていっていない気がします。
人間はまだ五感を使わないと学習できない、という発想に立ち戻りましょう。
ペーパーレス時代は、学習者の受け身さが顕著に出る
昔は、黒板に先生が書いた文字を、真っ白なノートに必死にまとめるような授業時間でした。
今と比べれば不親切・不便な面も多かったですが、強制的に手を動かすという学習姿勢をみんなできていました。
現在だと、手を動かさなくても、モニター、スライド、パワーポイント、そしてオンライン配信を通して、ご親切にもすべての情報が手元に送られてきます。
一度にひと目に送られすぎて、受け取る側がパンクしているようにさえ感じます。
私も仕事柄、いろいろなセミナーや説明会に参加しますが、スライドが映されてスライド印刷資料も手元にあるので、座っている側は体を動かさなくても終われます。
私はそれでも手を動かすことの効能を知っているので常にペンを握って手を動かし続けますが、会場全体を見てもそのように手を常に動かしているのは大人でも1割もいない印象です。
子どもたちはもっとではないでしょうか。
特に、好きでもない科目を勉強するという時、このペーパーレス環境は悪影響をもたらすと考えています。
紙を使わなくていい、という自由が逆に子どもの学習を阻害しています。
デジタル環境を受け身で右から左に流すように受けるのではなく、自ら工夫を凝らすという主体性・自立性が求められる残酷な時代になったと言えます。
具体的には、ペーパーレスで映された情報(字・図表)を、そのままペーパーレスで受け取るのではなく、自分自身でペーパー(書き写し、要約・メモなど)を作ってください。
そして、オンラインで答えが映っているからと言って、自分がその情報を覚えたわけではないと自覚しましょう。
紙の上でも書けるか自分を試し、最終的に学習アプリなどでテストするという工夫です。
これが、進化スピードのゆっくりな人類にピッタリの“身体化した学習”です。
紙がない=ブラックボックス化
学校などからのお知らせが生徒の端末の中で完結するので、紙の時代と違い、周りの大人が気軽に見ることができないようになりました。
私は、このブラックボックス化の危険も学力の分かれ目になると考えます。
当教室の中においても、ここ数年で特に高校生のテスト範囲の確認は大変になりました。
生徒のスマホ内にあるので、生徒に許可をもらってwi-fi経由で印刷するか、画面を見ながら書き写すといったことをしています。
便利な時代を目指しているはずなのに、なぜか不便です。
学校からの諸連絡も、保護者様を介さず生徒に直接ということが増えると、これはいいかえれば(連絡に対する)すべての責任を生徒が背負うということになります。
そのような点でも、ペーパーレス時代では生徒に自己管理ひいては自立性が求められています。
主体性や自立性といった「見えない学力」が、今まで以上に学力の分け目になるような気がしてなりません。
おわりに
2026年1月の大学入学共通テストからは、出願方法がついにWeb出願に一本化されるようになります。現・高3生から対象です。
これまで共通テストの出願と言えば、高校の先生を通して出願手続きをおこなうパターンが一般的でした。
今年度からWeb出願になることで、今後は受験生が自宅のパソコンやインターネット端末を使って、自分自身で手続きしていく流れが予想されます。
おそらく高校でもWチェック的な機会を設けてくれると思いますが、これまでは願書を取りまとめる高校の先生に出願責任があった風潮から、最終的に出願ボタンを押したかは受験生側の責任という流れに変わっていくでしょう。
万が一、出願を忘れてしまったり、書類に不備があったりした場合、受験機会を失うことにもなりかねません。
ICT関係における生徒さんの自己管理能力が、これまで以上に重要になると感じています。
冒頭に記したとおり、再来年2027年には小学生の全国学力テストもCBT化です。
当教室も英単語練習アプリを通して遠回りをしてたどりついた結論ですが、デジタル環境がもたらす見た目の豊かさに翻弄されないことです。
自分自身がその知識を本当に覚えているのか、がすべてです。
ペーパーレス学習の前後に手を動かして声を出す「動物的な時間」を作っていきましょう。
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AIに画像生成してもらいました。イラストや写真の素材もデジタル化の波ですね… |
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京進の個別指導 スクール・ワン四日市ときわ教室
住所:三重県四日市市城西町4-21 ときわビル1階東
電話受付時間:火曜~金曜の16:00~22:00
電話番号:059-329-7664
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教室長:吉川(よしかわ)
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